私のばあちゃんは、いつも沢山湿布をくれた。
しかも肌色のちょっと高い物。
中学生だった私はそれを良く思っていなかった。
私は足に小さな障害があった。
けれど日常生活に支障は無く、皆より少し運動能力が劣る程度のもの。
確かに湿布はあると助かるけれど、そんなに無くても困らない。
そんなに湿布を買うくらいなら別の物を買ってくれたって良いのにと思っていた。
※
受験生の時。
誕生日に半年ぶりに会った婆ちゃんから誕生日プレゼントを貰った。
それは沢山の湿布だった。
湿布が7、8枚入った袋を何十個もビニール紐で縛ったやつだった。
「もう運動することもないんだし、湿布はもう必要ないよ」
私はばあちゃんにそう言って、湿布を受け取らなかった。
ばあちゃんは少し寂しそうな顔をして、
「そうかね」
と言い、お小遣いをくれた。
※
それから半年後、ばあちゃんは死んだ。
私は受験だからと言ってばあちゃんに会いに行かなかったから、誕生日の時に会ったのが最後になった。
葬式の最中も特に何も感じなかった。
※
暫くして、ばあちゃんのことも落ち着いた頃、私は軽い気持ちでそれを母へ話した。
すると、母が泣き崩れた。
私は何故母が泣くのか解らなくて、理由を聞いた。
「ばあちゃんね、癌があったのよ」
ばあちゃんは私が小学生の頃に癌が見つかっていた。
ばあちゃんは私がショックを受けるのを嫌がり、私には言わないように言ったらしい。
ばあちゃんは抗生剤があまり体に合わず、しょっちゅう発作を起こしていたらしい。
体も酷く痛むから、医者からは毎回大量の湿布を処方してもらっていたそうだ。
でも、ばあちゃんはその湿布を使うことはなかった。
その湿布の全てを私にくれていたから。
その時、私は初めて声を上げて泣いた。
※
ばあちゃん、あの時ばあちゃんの愛に気付けなくてごめんなさい。
受験にかこつけてばあちゃんを避けていた私はとんでもない大馬鹿野郎です。
どうかもう一度会えるのなら、ばあちゃんと話がしたいです。
今度は私から、山ほどの湿布と、愛を贈らせてください。
お願いします。