ちょっとした事で母とケンカした。
3月に高校を卒業し、4月から晴れて専門学生となる私は、一人暮らしになる不安からか、ここ最近ずっとピリピリしていた。
「そんなんで本当に一人暮らしなんて出来るの?
あんたいっつも寝てばっかで…ゴミ出す曜日は確認した?
朝は起きられるの?
火事だけには気を付けてよね?」
事ある毎に聞かされる母の言葉にうんざりして、ついに今日
「あぁー!もぉー!うるさいなあ!!
自分で決めた事なんだから大丈夫だって!!
わざわざ不安を煽るような事は言わないでよ!!
少しは私の気持ちも考えて!
最初っから上手く行く訳ないでしょお!?
自分の娘なら、ちょっとくらい応援してくれたっていいじゃん!!!」
と、自分でもビックリする程の大声で母に怒鳴ってしまった。
ハッとして『やばい!怒られる』と思ったが母は何も言わず、悲しいような怒っているような、どこか複雑な顔をして、そのまま車に乗ってどこかへ行ってしまった。
いつもと違う母の様子に少し戸惑ったが、特に気に留めず、テレビや携帯を見て一人で適当に時間を潰した。
※
夕方を過ぎても、夜になっても、母は帰って来なかった。
遅い、遅過ぎる。
まさか事故にでも遭ったのか…?
冗談じゃない。
それだったら病院から電話があるはず…。
なんて考えていたら、外で母の車のエンジンの音が聞こえた。
「ただいまー」
いつも通りの母の声にほっとした反面、何でこんなに帰りが遅いのか問い質そうとした瞬間、目の前にやたらと大きな薬局の袋が置かれた。
「何これ?」
と母に聞くと、重たそうなその袋を見ながら
「あんたの薬。
一人暮らしする時、薬が無かったら大変でしょう。
取り敢えず一通りあったものを買って来たから。
あんたはすぐ体調崩すからねぇ」
頭痛薬、咳止め、湿布や包帯、口内炎の薬、のど飴など、袋の中にはありとあらゆる種類の薬が入っていた。
「こんなに沢山…」
私は驚いて、もうそれしか言えなかった。
こんな時間まで、私のために母は…。
「一人暮らしかぁー。
見送ってやらなきゃいけないのにねぇ。
お母さん心配でね、凄く寂しいのよ。
風邪を引いた時とか、本当はお母さんが傍に居てあげたいんだけどねぇ」
もうそれを聞いて涙が溢れて来て、自分の不甲斐なさと母への申し訳なさで、顔を上げられなかった。
薬だって決して安いものじゃないのに。
自分の娘を応援しない母親なんているはずがないのに、何で気付いてあげられなかったのだろう。
もっと応援しろだなんて…。
私のことを一番想っていてくれて、支えてくれたのは、他の誰でもないお母さんなんだよね。
分からず屋でゴメン。
いつも、いつも、いつも、いつも、ありがとう。
※
その後、遅めの晩御飯を母と一緒に食べました。
残り少ない母の味を、もっと大切にして行こうと思います。