それは、お父さん、お母さん、そして小学生の三姉妹から成る仲良しの一家だった。
しかし、時は残酷にもその家族の中心であるお母さんを奪ってしまう。
ある日の帰宅途中、悲しい交通事故が彼女の命を奪ったのだ。
家族を支えていたお母さんのいない日常は、慣れない家事に四苦八苦するお父さんの姿が目立った。
タマゴ焼きは焦げ、洗濯物は皺だらけ。
しかし、そんな中でもお父さんは、決して不機嫌になることなく、三姉妹を優しく包み込んで育てていった。
彼の楽しみはただひとつ、お風呂での歌唱タイム。
湯船に浸かりながら、心の底から歌を唄うお父さんの声は、家族の心を癒していた。
「いつか本格的なカラオケボックスで思い切り唄いたいな~」と、時折家族に話していた。
ある日、お父さんの誕生日が近づくにあたり、三姉妹は秘密の計画を立てた。
彼女たちが集めたお小遣いを一つの貯金箱に集め、近くのカラオケボックスへと向かった。
受付で、子供たちの突然の要求に驚く店員。
しかし、店長が彼女たちの姿を見つけると、何かを悟ったように優しく近づいてきた。
「このお金、全てで予約したいんです。」
真っ直ぐな瞳で答える三姉妹。
お金の額を見ると、当然、予約するのには足りなかった。
しかし、店長は微笑みながら「了解しました」と答えた。
誕生日当日。
三姉妹は店内の部屋を飾りつけ、お父さんをサプライズパーティーに招待した。
楽しい時間が流れ、家族の笑顔が溢れる中、お父さんは感極まった様子で歌を歌い上げた。
終了時間が近づき、お父さんは精算のためカウンターへ。
店長は深々とお辞儀をし
「お会計は終わっています。娘さんたちから大切なものを頂きました。私たちも感謝しています」
と伝えた。
お父さんは目を細め、三姉妹を見つめながら「ありがとう」と言った。
店の外に出た家族の背中を見つめながら、店長と従業員たちは涙を流した。
その日、彼らは価値以上のものを共有し、心温まる時間を過ごした。