遠足の日、お昼ご飯の時間になり、担任の先生が子供たちの様子を見回って歩いていた時のことです。
向こうの方でとても鮮やかなものが目に入って来ました。
何だろうと思い近寄って見ると、小学三年生の女の子のお弁当でした。
中を覗いて見ると、お花でびっしりのお弁当箱でした。
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実はその女の子の家庭は、お母さんとお父さんとその女の子の三人の生活でした。
しかし遠足の数週間前に、お母さんは交通事故で亡くなってしまったのです。
それ以来、お父さんと女の子の生活が始まりました。
お父さんの仕事はタクシーの運転手さん。一日交代の勤務で、遠足の当日は勤務の日でした。
でも、お父さんは炊飯器でご飯だけは炊いてくれていました。
女の子は一人で起きてご飯を弁当箱に詰めます。おかずは自分で作らなければなりません。
家にあるのは梅干と沢庵。そこで、おかずを作り始めます。
小学三年生の女の子に出来たのは、ぐじゃぐじゃの卵焼きだけでした。
そのぐじゃぐじゃの卵焼きを白いご飯に入れた時、女の子はお母さんが生きていた頃のことを思い出します。
お母さんが生きていた頃は、とても素敵なお弁当を作ってくれました。
それを思い出すと同時に、今日持って来るお友達のお弁当箱が気になり始めます。
お母さんが作ってくれる可愛らしい綺麗なお弁当。
そう思って自分のお弁当箱を覗いた時、真っ白いご飯に黄色のぐじゃぐじゃの卵焼きだけ。
女の子は思わずお母さんの仏壇の前へ行き、仏壇に差してあったお花を千切って持って来ました。
そして自分のお弁当箱に入れ、びっしりとお花で埋め尽くしたお弁当箱を持って来ていたのです。
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この女の子の担任は、遠足から帰ると大声で泣きました。
女の子の生活を十分知っていた自分であったはずなのに、実は知っていたつもりでしかなかった悔しさで、泣き続けたのです。