ファミレスで仕事をしていると、隣のテーブルに親子が座ったんです。
妙に若作りしている茶髪のお母さんと、中学一年生くらいの兄、そして小学校低学年くらいの妹です。
最初はどこにでも居る家族連れだなあ…くらいにしか思ってなかったのですが……驚きました。
母「ほら! 早く決めなさいッ! ったく、トロいんだから!」
お母さんが、デフォルトでキレているのです。
子どもが何をしても、怒鳴りつけるんです。
妹「それじゃ、わたしカレーにするー」
母「そ。わかった」
妹「わたし、カレー好きー」
母「うるさいな! そんなこと聞いてないでしょ!?」
カレー好きって言っただけじゃん!何で、怒鳴るんだよ!?ヽ(`Д´)ノ
お兄さんの方は、もうこのお母さんに呆れているのか、
兄「…………」
無表情でそっぽを向いたまま、一言も喋ろうとしません。注文を決める時も、メニューを指差しただけ。
関わり合いになるのを極力控えているみたいです。
※
料理が届いてからも、お母さんはキレっ放し。
妹「いただきまーす」
母「黙って食べなさい」
妹「……ショボーン(´・ω・`)」
兄「…………」
ただカチャカチャと鳴り響く、食事の音。
さっさと自分だけ平らげた母親は、タバコを吸いながら携帯を弄り始めました。
やるせねぇ(‘A`)
※
すると突然、妹が明るい顔をして口を開いたんです。
妹「あ、そだ、お母さん!聞いて聞いてっ!あのね!えとね!今日、学校でね、とってもいいことが……」
母「うるさい!食べてる時は騒がないの!周りの人に迷惑でしょ!」
ちっとも迷惑じゃないよ!うるさいのは、アンタだよ!
寧ろその子の話、聞いてあげてよ!
怒鳴られてびっくりした妹が、カレーをテーブルにほんのちょっと落としちゃったのですが…。
母「あーもー!汚いな!何でちゃんと、食べられないの!?綺麗に食べなさい!綺麗に!あーもームカツク!」
烈火の如く、怒る母。
そんなに怒るほど、こぼしてないだろー!?ヽ(`Д´)ノ
妹「うう…ごめんなさい……」
ブツブツ文句を言いながら、母親は携帯を弄っている。
妹は涙目。兄は一言も喋らずに、黙々と食べています。
まるでお通夜みたいな雰囲気に包まれたテーブル。
こんな食事、楽しいはずがない。
※
すると、母親の携帯が鳴り始めました。
母「ちょっとお母さん、電話して来るから。サッサと食べちゃってね」
そう言い残して、携帯片手に母は店から出ました。
電話する暇があったら、我が子と喋れよ!
子育てを経験するどころか、恋人も居ない僕には言う資格がないかもしれませんが、それでも言いたい。
もうちょっと、子どもとの接し方ってもんがあるだろ。それじゃ、あまりにも可哀想だろ。子どもがグレてからじゃ遅いんだぞ(`Д´)
と、隣のテーブルで、私はキレまくっていたのですが……。
妹の様子を見て、怒りも吹き飛びました。
その子は涙目のまま、一生懸命カレーを食べていたんです。
お母さんの言いつけを守りたいから、ゆっくり食べていたら怒られてしまうから……味わう余裕もないぐらい、急いで食べていたのです。
でも、もともと食べるのが遅い子なのでしょう。焦っているからか、口の周りをべそべそに汚してしまっていて……。
きっと、それをまた怒られてしまうのに、それすらも気付かずに必死にカレーをかき込んでいたのです。
目にいっぱい涙を溜めて。一生懸命に。
もうね、この世には親子の情はないのかと、寂しい気持ちになってしまいましたよ。
あんなお母さんはやめて、お兄さん家の子になれと、そう言って抱き締めてあげたくなったほどです。
※
その時、一言も喋らなかった兄がボソッと言ったのです。
兄「……そんなに急がなくてもいいよ」
妹「え?」
兄「ゆっくり食べな」
妹「で、でも……お母さんが」
兄「いいから。好きなんだろ、それ」
妹「うんっ」
兄は、チラッと母親が出て行った出口の方を確認しつつ…。
兄「で? 何があったって?」
妹「???」
兄「学校でいいことあったんだろ」
妹「う…うんっ!あのね!えとね!今日学校でね!」
妹は楽しげに喋り始めました。他愛もないことだったのですが、とっても嬉しそうに。
きっと、聞いてもらえるだけで嬉しいのでしょう。さっきまで涙目だったのに、満面の笑みを浮かべています。
兄は、にこりともせずに話を聞いてあげていたのですが、
兄「そっか。良かったな」
と言って、妹のべそべそになった口元を拭いてあげたのでした。
親子の情は見えなくとも、兄妹の情はちゃんとありました。
きっと、この二人は真っ当に育つと思います。