私には、兄が居ました。
三つ年上の兄は、妹思いの優しい兄でした。
子供の頃はよくドラクエ3を兄と一緒にやっていました(私は見ているだけでした)。
勇者が兄で、僧侶が私。遊び人はペットの猫の名前にしました。
バランスの悪い三人パーティー。兄はとっても強かった。
苦労しながらコツコツ進めたドラクエ3。面白かった。
確か、砂漠でピラミッドがある場所だったと思います。
敵がとても強かったので、大苦戦していました。
※
ある日、兄が友人と野球に行く時、私に言いました。
「レベル上げだけやってていいよ。でも先には進めるなよ」
私はいつも見ているだけだったのでよく解らなかったけど、何だかとても嬉しかったのを覚えています。
そしてその言葉が、兄の最後の言葉になりました。
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葬式の日、父は兄の大事にしていた物を棺桶に入れようとしていました。
お気に入りの服。グローブ。セイントクロス。そして、ドラクエ3。
でも私は、ドラクエ3は入れないで欲しいとお願いして、譲り受けました。
だって、兄からレベル上げを頼まれていたから。
私は来る日も来る日も、時間を見つけては砂漠でレベル上げをしてました。
ドラクエ3の中には、兄が生きていたからです。
そして何となく、もし強くなったらひょっこり兄が戻って来る…。そう思っていたのかもしれません。
兄は、とっても強くなりました。
とっても強い魔法で、敵を全部倒してしまうのです。
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それから暫くして、ドラクエ3の冒険の書が消えてしまいました。
その時、私は初めて泣きました。
ずっとずっと、母の近くで泣きました。
お兄ちゃんが死んじゃった。
ようやくそう実感出来ました。
今では、冒険の書が消えたことで、前に進む切っ掛けをもらえたのだと感謝しています。