20歳を迎えたその日、姉が雰囲気の良いショットバーに連れて行ってくれた。
初めてのバーに圧倒されている俺を見て、姉は
「緊張してんの? 何か子供の頃のアンタみたい」
とニヤけた顔をしながら、大好きなコロナビールをあおっていた。
俺と姉は結構仲が良く、ファッションや音楽の趣味も大体同じ感覚だった。
偶に姉と買い物に出掛けたが、途中で飽きる事は無かった。
友人たちから、お前らマジで姉弟関係なのかと問われる事があるほど、仲が良かったと思う。
※
俺も姉も良い感じに酔って来た時、いつもの顔ではない姉がそこに居た。
「本当、アンタとこんな風に飲めるなんて思わなかったわよ。
あの時、アンタが死んでたらアタシも死んでたかも…。
何時だってアンタは…アンタはアタシの弟なんだよ…。
アタシ、アンタの姉で良かったよ」
そう言って姉はポロポロと涙を溢した。
※
俺は小学校の時に、交通事故に遭って生死の境を彷徨った。
姉と二人で登校していたのだが、信号無視の車が俺に突っ込んだのだ。
親から聞いたのだが、その時に姉は俺を轢いた加害者に掴みかかり、
「弟が死んだらアタシも死んで化けて出てやるんだから」
と言ったらしい。
※
「ねぇねぇ、アンタ彼女にフラレたらしいじゃん。寂しいならアタシが構ってアゲルよ~」
「姉ちゃん酔いすぎだヴォケ!」
色目を使って脇腹をつつく姉に、俺はこの人が姉で本当に良かったと思った。
元気で優しくて、時折ケンカもして、だけど辛い時は必ず相談に乗ってくれて…。
その後はいつも、俺の大好きなポテトサラダを作ってくれた姉。
※
そんな姉が、去年他界した。
病気で辛かったはずなのに俺や親に黙っていて、気付いたら手遅れだった。
鈴虫の鳴く声が響く静かな夜、最期に姉はこう言った。
「あの時にアタシはアンタに命を分けた気がするよ。
だから、アンタはアタシの分までしっかり生きるんだよ」
俺は姉が大好きだったんだなと思う。マジで半分くらいシスコンだった気がする。
でも姉ちゃん、俺はね、マジでアンタが実姉で本当に良かったと思うよ。