昔の話だが、近所に旦那さんに先立たれ、独り暮らしをしているお婆ちゃんが居た。
お婆ちゃんは室内で柴犬を飼っていた。
嫁いだ娘さんや孫たちがしょっちゅう様子を見に来ていたから、そう寂しくはなかったとは思うが、少し心臓を患っていて、親族には心配の種だったようだ。
ある日、お婆ちゃんの柴犬が窓ガラスに体当たりして、血塗れで道に走り出し、凄い勢いで吠えながら近所中を駆け巡ったそうだ。
近所の人は驚き、お婆ちゃんに何かあったのだろうかと思い駆け付けてみると、案の定、お婆ちゃんは心臓発作を起こしていて、台所で苦しみ悶えていた。
すぐに救急車を呼び、入院。そして手術。
その間、当時まだ若かった俺の爺ちゃんが柴犬を預かっていた関係で、この話は何度も聞かされたのだ。
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お婆ちゃんはめでたく退院し、数年が経った。柴犬もすっかり年を取った。
ある日、お婆ちゃんの家の雨戸が昼になっても開かない事を心配し、隣家のおばさんがお婆ちゃんの娘さんに連絡。
娘さんが駆け付け、俺の爺ちゃんや近所の人が一緒に家に入ってみると、お婆ちゃんは既に寝床で冷たくなっていた。
苦しんだ痕は無く、死に顔は安らかだったという。
眠っている間に心臓が停まってしまったのだろう、との事だった。
枕元では、柴犬がお婆ちゃんに顔を寄せ、冷たくなっていた。
愛犬が主人と共に逝く話は割とよく聞くが、彼らは自分の死をコントロールできるのだろうか?
柴犬は年老いていたが、大事にされていて栄養状態も良かったから、まだまだ元気だったはずだと、俺の爺ちゃんは言っていた。
果たして、人間のように首を吊ったりなどではなく、蝋燭の火を吹き消すように自分の命を終える事が出来るのだろうか?
それが何とも不思議だ。