高校2年生の夏、僕は恋をした。
好きで好きで堪らなかった。
その相手を好きになった切っ掛けは、僕がクラスで虐めに遭い落ち込んでいた頃、生きる意味すら分からなくなり教室で一人泣いていたら、彼女がそっと近寄って来て、
「○○に涙なんて似合わないぞ。
ほら、笑いなよ!
私、笑ってるあんたの顔好きだよ」
と言ってくれたのだ。
それからは僕は、虐められてもずっと笑っていた。泣くこともやめた。
そうすると次第に虐めも無くなり、気が付けば友達も沢山出来ていた。
あの時の僕を救ってくれたのは、間違いなく彼女の一言だった。
※
それ以来ずっと彼女を想い続けて、気が付けば高校の卒業が近付いていた。
その間、何度も何度も告白しようとした。
でも好きだから、好き過ぎたから失うのが恐く、実行は出来なかった。
しかし卒業が間近になり、ようやく覚悟を決めた僕は、卒業式の日に彼女に告白することを決心した。
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そんな卒業式の三日前の朝、いつものように彼女におはようを言おうと思って教室を見回したが、彼女の姿は無い。
入試も近いし今日は休みなのか、と気を落としていた。
その時、担任の先生が暗い顔をしながら教室に入って来た。
そして、いきなり僕達にこう告げた。
「△△さん(彼女の名前)が昨日、学校の帰りに車に撥ねられ意識不明になり、今朝病院で亡くなりました…」
何を言ってるのか解らなかった。状況が理解出来ない僕は、みんなが泣いている中、泣くことすら出来なかった。
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そしてお通夜の日、棺桶の中に居る清められた彼女の姿を見た時になって、ようやく涙が込み上げて来た。
祭壇に目をやると、彼女の写真が目に映った。
彼女は笑っていた。
その時、ふと彼女が僕に言ってくれたあの言葉を思い出した。
僕は笑った。
他の参列者の目には、人の死を前にして笑顔を浮かべる僕はどう映っただろうか?
それでも僕は彼女の写真を見ながら笑顔を続けた。
※
彼女の死から2年が過ぎ、クラスで同窓会をした。
その時にクラスの女子から、高校の時、彼女が僕を好きだったという事を教えられた。
僕はその瞬間、初めて泣いた…。声を上げて泣いた…。
それからまた、僕は笑った…。