私は現在20歳です。
今付き合っている彼氏とは、去年の夏にナンパされて知り合った。
彼氏の見た目はいわゆるチャラ男で、それなりに遊んでいる感じ。
絶対好きになんてならないと思っていた。
でもよく笑うところや優しいところが好きになり、一緒にいればいるほど好きになってしまった。
彼氏も私に「好き」と言ってくれた。
ただ、付き合うとか彼氏と彼女という関係にはなれず、雰囲気に流されてエッチしてしまった。
※
それから何ヶ月か、そんな関係が続いた。
こんなの、人に言えなかった。
でも私は彼氏が大好きだったし、そんな関係は辛かったので
「このままの関係なら、もう会えない」
と伝えた。
彼氏は真剣に話を聞いてくれて、それから私たちは付き合うようになった。
※
付き合って半年経った1ヶ月前、
「子供は女の子がいいね」「結婚して何年経っても、一緒にお風呂入ろうね」
と、同じ未来を思い描いていた。
私も彼も子供が好きだし、当たり前のように子供を授かる事ができると、そう思って疑わなかった。
※
1ヶ月経っても2ヶ月経っても、生理が来なかった。
おかしいなと思ったけど、妊娠の可能性は低い。
彼氏は絶対に避妊してくれるから。
取り敢えず、妊娠検査薬を使った。
でも陽性反応は無かった。
※
次の日、会社を休んで産婦人科へ行った。
不妊症だと言われた。
信じられなかった。
何で私が?
そればかり考えた。
涙は出なかった。
先生が間違った診断をしているだけだと思った。
そんなはずは無いのに。
やたらに先生にむかついた。
何でこんな事を言うのだろうと思い、腹立たしかった。
次の検査の予約を無理やり取らさせて、この日の検査は終わった。
※
車のエンジンを掛けると、彼氏の大好きなケツメイシの曲が流れた。
その瞬間、涙が物凄い勢いで溢れ出した。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
泣きながら彼氏に電話を掛けた。
彼氏も仕事中のはずだ。
出る訳が無い。
頭では解っているのに、何度も何度も電話を掛けた。
独りぼっちなのが、とにかく不安だった。
※
昼の13時過ぎになり、彼氏から着信があった。
電話の向こうは、お昼休みなのか騒がしかった。
私は泣いていて、何も言えなかった。
彼氏は、
「話せるようになるまで待ってるから」
と言い、泣いているだけの私の電話を切らずに、ずっと待っていてくれた。
それでも話すことが出来なかった。
「ごめんなさい…」
私がこう言ったのが、彼氏にちゃんと伝わったかは分からない。
※
その日の夜、彼氏が作業着のまま家に来た。
「すぐ来てやれんでごめんな」
私の頭を撫でながら、彼氏がそう言った。
「あたし、子供産めんて。そうゆう病気なんだって」
彼氏はポカンとしていた。
こいつ何を言っているんだ…という顔をしていた。
「何言うてるん?」
「解らん」
「解らん訳ないやろが」
「先生がそう言うた。あたしも信じられんもん」
「…まじかよ」
彼氏はそう言ったまま、何も言わんかった。
別れることは覚悟していた。
子供が産めない私は、彼氏と一緒にいたらいけないと思った。
大好きな人だから、幸せになってもらいたいと思った。
でも、離れるのは嫌だった。
ずっとずっと傍にいて欲しかった。
「ごめんな」
彼氏を見たら、泣いていた。
彼氏が泣いたところなんて、今まで見たことがない。
いつもにこにこしていて、弱音も吐かない彼氏が泣いていた。
「一人で病院なんか行かせてごめんな…」
彼氏は私の手を強く握っていた。
「大丈夫だよ。あんたがおらんでも、あたしは大丈夫だから…」
精一杯の強がりだった。
今すぐ抱き締めて欲しいのに、くだらない意地が邪魔をした。
「別れよう」
私の顔は化粧がぼろぼろに落ちて、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
「ぶざけんな!勝手に決めんなよ!」
初めて彼氏が大声で怒鳴った。
「ずっと一緒だって言うたやろ…」
「でも、あたしとずっと一緒におっても、人並みに幸せになれんのは、あんただって解ってるやろ…」
彼氏は悲しそうな顔をしてた。
「俺、ガキなんかいらん」
嘘だ。欲しいって話を何度もしたのに。
女の子がいいねって言ってたのに。
「明日、渡そうと思ってたんだけど」
彼氏は作業着の中から箱を取り出した。
箱を開けると、指輪が入っていた。
彼氏は私の左手の薬指に指輪を填めると、ちょっと笑って
「結婚しよう」
と言った。
この日は、私たちが付き合って半年になる記念日の一日前だった。
※
「ガキいなくたって、幸せな家庭は築けるんやて」
彼氏はめちゃくちゃ笑顔だった。
「お前さ、料理上手くないやんか。
俺もそんな得意じゃないけん、二人でやれば何とかなるやろ。
あと、お前は強がりで素直じゃないけん、俺はお前が何考えてるかよう解る。
それとかさ、この前観た映画でさ、記憶が消えて行くって病気あったやん?
もし、お前がそれになっても心配ないで。
俺がお前の忘れたくないこと、全部覚えとるし」
この日の何日か前に『彼氏と頭の中の消しゴム』という映画を観たばかりだったから、何だか笑ってしまった。
「何か話ズレとるよ?」
泣きながら笑った私を見て、彼氏は汚い作業着の袖で私の涙を拭いた。
「やっと笑った」
にこにこしている彼氏の顔を見たら安心した。
※
それから、正式に婚約をしました。
大好きな彼は、いつも傍にいて私を支えてくれています。
辛いこともあるけど、彼が傍にいてくれるから頑張れます。
一緒に泣いて一緒に笑って、凄く幸せだなあと思います。
不妊治療、頑張ります。