友人の結婚披露宴に参加した際の出来事です。式も終盤に差し掛かり、新婦の父親のスピーチの時間がやってきました。
「明子。お前が生まれたばかりの頃、お母さんは病気で亡くなってしまった。
お前は母の顔を写真でしか見たことがなく、母親の声も知らず、母の愛情を直接感じることもなかった。
片親で育つ辛さもあっただろうが、お前は一度も文句を言わず、明るく素直で思いやりのある子に育ってくれた。
手がかからない子で、よく家事も手伝ってくれた。今日、こんな素敵な相手と結婚し、幸せになるお前を見て、お母さんもきっと喜んでいると思う。
しかし、私にはお前に謝らなければならないことがある。お前が生まれた時から、お前に渡すタイミングをずっと考えていた物があるんだ。」
こう語りながら、彼は古びた箱から一本のビデオテープを取り出し、会場に設置されたビデオプレーヤーで再生し始めました。会場内は一瞬にして静まり返りました。
画面に映し出されたのは、病院のベッドに横たわり、笑顔で新生児を抱く一人の女性。それは25年前の新婦とその母親でした。
画面の中の母親は、幸せそうに笑いながら赤ちゃんをあやしています。その姿はまさに聖母のように美しく、優雅でした。
母親の顔を初めて見る新婦は、涙を抑えることができずにいました。それを見た参列者も、次第に涙を流し始めました。会場全体が感動で包まれていきました。
特に新婦は涙にくれながらも、画面を見つめ続けていました。一方で、新婦の父は、何事もなかったかのように淡々としていました。その様子が、また別の意味で涙を誘いました。
この瞬間、新婦は父親がこれまで秘密にしてきた母親の記憶と愛情を、心の底から感じ取っていたのです。