大阪の藤井寺に住んで居られる原田さんというお母さんの話です。
息子さんは高校三年生。阪南大高校の野球部に入り、レギュラーを目指して頑張って来ました。
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大阪府予選を目の前にした土曜日のことです。
いつもは遅くとも 21時までには必ず練習を終え、汗びっしょりになって帰って来るのに、22時半を過ぎても戻って来ません。
友だちの家に電話をしてみましたが、レギュラーのその子は 20時半過ぎに帰って来たと言います。
思い余って、今度は警察に連絡してみました。
しかし「今のところ事故の連絡は入っていません」とのことでした。
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そうこうするうちに、連絡が入りました。
主人が笑顔でこう言うのです。
「三年生でレギュラーになれんかった部員だけ残って、引退試合があったんやて。
相手はレギュラーになれんかった、よその学校の部員や」
レギュラーにはなれなかったけど、同じように 3年間苦しい練習に耐えて今日を迎えています。
補欠にもなれないその子たちの、せめてもの晴れ舞台だったのです。
その引退試合は負けたものの、12人は「焼肉を食べに行こう」という流れになったのです。
一人前千円の食べ放題の店でした。あっという間に時間が経ち、気が付いて慌てて家に電話をしたということだったのです。
こんな心にくい演出をしてくれた監督さんも、素晴らしいと思います。
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この間、川上哲治さんとゴルフをする機会がありました。
川上さんはこう言いました。
「甲子園で勝った方の学校の校歌を歌う必要はない。負けた方の学校の校歌を歌えば良い。
そうすれば、決勝戦までに全ての学校の校歌が野球場に流れます」
負けた方をホームベースに立たせて、勝った方はまた試合ができるのだから、ベンチの前で拍手をして送り出す。
これが本当の強さであり、優しさではないかと思うのです。