その人は一個上の先輩で、同級生や後輩からも『たくちゃん』と呼ばれていた。
初めて話したのは小学校の運動会の時。
俺の小学校は、全学年ごちゃ混ぜで行われる。俺は青組みだった。
その中に、明らかに体のバランスの変な人が居た。それがたくちゃん。
たくちゃんは生まれつきの障害で身長があまり伸びない。所謂『小人病』らしい。
たくちゃんは初対面の俺らにも明るく話し掛け、同級生にも人気があった。
それを機に、俺はたくちゃんと仲良くなった。
たくちゃんは俺ん家の近くの団地に住んでいて、そこには小さな公園もあった。
そこは俺らの遊び場だった。ミニ四駆やハイパーヨーヨー、ポケモン…。
学校が終わると、上級生も下級生も皆がそこに集まった。たくちゃんは話が上手く、誰にでも優しかった。
初めて公園に来るグループにも積極的に話し掛けてやる。俺たちはかなり仲良くなった。
たくちゃんは中学に上がると、部活などで公園に来る事も無くなり、一年間ほど会わなかった。
※
やがて俺も中学に上ったが、何となく知らない上級生と居るたくちゃんには話し掛けづらく、前のように楽しく話すような事は無かった。
関係は変わったが、たくちゃんの身長は変わらなかった。
中学の卒業式の時に見たたくちゃんは、俺の腰あたりに頭があった。
その内、たくちゃんは地元の高校に進学した。
一年後、俺はたくちゃんとは違う、電車で15分ほどの所にある高校に進学した。
それからずっと、たくちゃんの事なんて忘れていたと思う。
※
高校1年生の二学期ももう終わるかという頃、俺は地元の友達と遊んでいた。
皆で歩いていると、たくちゃんが通う学校の前に、同級生らしき人とたくちゃんが居たのだが、様子が少し変だった。
たくちゃんが一人前を歩き、その他、何人かが後ろを歩く。
嫌な予感は当たり、たくちゃんはそいつらに後ろから小突かれたり、チビだのと言われていた。蹴られたりもしていた。
俺は心臓がかなりバクバクして、何故か焦った。どうして良いか分からなかった。
すると、一緒に居た俺の友達がたくちゃんの方へ走って行き、後ろの奴にいきなり飛び蹴りをした。
その後は俺も参加して、もうごちゃごちゃの大乱闘。
本当に奴等が許せなかった。明るいたくちゃんが虐めを受けている。この事に心底動揺した。悔しくて、許せなかった。
喧嘩は、泣きながら向かって行く俺らにビビって相手が逃げた。大勝利。
この後、たくちゃんと久しぶりに少し話した。
※
2日後、10人くらいの不良が学校帰りの俺を駅で待っていた。何発か殴られて、MDプレイヤーと携帯を壊され、金を取られた。
乱闘に参加した他の奴等の所にも来たらしい。奴等は俺の名前を知っていた。
何故かはすぐに予想できた。たくちゃんが話したんだろう。でも、怒りなどは湧かなかった。
親は俺の腫れた顔を見て驚いたものの大事にはせず、その日はすぐに寝た。
※
そして次の日、たくちゃんは死んだ。地元の文化ホールから飛び降りたのだ。
遺書などは無かったらしいが、恐らく裏切った俺らに合わせる顔が無いと思ったんじゃないかな。たくちゃん、優しいから。
何でそんな事を気にしたんだよ。脅されたんだろ? 俺らの名前なんか、幾らでも言っちゃえって。
そんな事を気にし合うような仲じゃないだろ、バカ。