俺の家は貧乏だった。
運動会の日も授業参観の日さえも、オカンは働きに行っていた。
そんな家だった。
※
そんな俺の15歳の誕生日。
オカンが顔に微笑みを浮かべて、俺にプレゼントを渡してくれた。
ミチコロンドンのトレーナーだった。
僕はありがとうと言いつつも、恥ずかしくて着れないなと内心思っていた。
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その夜、一人考えていた。
差し歯を入れるお金も無いオカン。
美容院に行くのは最高の贅沢。
手はカサカサで、化粧など当然していない。
こんなトレーナーを買うくらいなら、他の事に使えよ……。
そんな事を考えながら、もう何年も見ていないアルバムを見たくなった。
そのアルバムには、若い時のオカンが写っている。
えっ!
俺は目を疑った。
それはまるで別人だった。
綺麗に化粧をし、健康的な肌に白い歯を覗かせながら笑っている。
そこには美人のオカンが居た。
俺は涙が止まらなくなった。
俺を育てるために女を捨てたオカン。
ミチコロンドンのトレーナーを腕に抱き、その夜は眠った記憶がある。
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それから少しばかり時は流れ、俺は高校卒業後の進路を考える時期になっていた。
大学進学はとっくに諦めていた。
学校で三者面談が行われた時、オカンが先生に向かって言った。
「大学に行かせるには、いくらお金がかかるのですか?」
俺は耳を疑った。
びっくりしている俺を横目に、オカンは通帳を先生に見せて
「これで行けますか?」
と、真っ直ぐな眼で先生を見つめた。
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それから俺は死に物狂いで勉強し、大学に合格することが出来た。
郷里を離れる際、オカンが俺に真っ赤なマフラーを渡してくれた。
学費を稼ぎながらの大学生活は苦しくもあったが、マフラーを見ると元気が出た。
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それから時は流れ、会計士になった俺は来年の春に結婚する。
そして生活を共にする……。俺と最愛の妻と、最愛の母とで。
何としても二人を守ってみせる。
色褪せたトレーナーとほつれたマフラーを前にして、俺はそう誓った。