私が考える教育の究極の目的は『親に感謝、親を大切にする』です。
高校生の多くは、今まで自分一人の力で生きて来たように思っている。
親が苦労して育ててくれたことを知らないんです。
これは天草東高時代から継続して行ったことですが、このことを教えるのに一番ふさわしい機会として、私は卒業式の日を選びました。
式の後、三年生と保護者を全員視聴覚室に集めて、私が最後の授業をするんです。
そのためにはまず形から整えなくちゃいかんということで、後ろに立っている保護者を生徒の席に座らせ、生徒をその横に正座させる。
そして全員に目を瞑らせてからこう話を切り出します。
「今まで、お父さん、お母さんに色んなことをしてもらったり、心配をかけたりしただろう。
それを思い出してみろ。
交通事故に遭って入院した者もいれば、親子喧嘩をしたり、こんな飯は食えんとお母さんの弁当に文句を言った者もおる……」
そういう話をしているうちに涙を流す者が出てきます。
「お前たちを高校へ行かせるために、ご両親は一所懸命働いて、その金ば沢山使いなさったぞ。
そういうことを考えたことがあったか。
学校の先生にお世話になりましたと言う前に、まず親に感謝しろ」
そして、
「心の底から親に迷惑を掛けた、苦労を掛けたと思う者は、今お父さんお母さんが隣に居られるから、その手ば握ってみろ」
と言うのです。
すると一人、二人と繋いで行って、最後には全員が手を繋ぐ。
私はそれを確認した上で、こう声を張り上げます。
「その手がねぇ!
十八年間お前たちを育てて来た手だ。
解るか。……親の手をね、これまで握ったことがあったか?
お前たちが生まれた頃は、柔らかい手をしておられた。
いま、ゴツゴツとした手をしておられるのは、お前たちを育てるために、大変な苦労して来られたからたい。
それを忘れるな」
その上で更に、
「十八年間振り返って、親に本当にすまんかった、心から感謝すると思う者は、今一度強く手を握れ」
と言うと、あちこちから嗚咽が聞こえてくる。
私は、
「よし、目を開けろ。解ったや?
私が教えたかったのはここたい。
親に感謝、親を大切にする授業、終わり」
と言って部屋を出て行く。
振り返ると、親と子が抱き合って涙を流しているのです。