父が高校生の時に、僕の祖父が死んだ。
事故だった。
あまりの唐突な出来事で我が家は途方に暮れたらしい。
そして父は高校を卒業し、地元で有名な畜産会社に入社した。
転勤により僕ら家族は実家からの引っ越しを余儀なくされた。
見知らぬ土地。
田舎の実家と比べるとかなり狭い部屋。
帰りが遅い父。
寂しさが募る母。
大きいお家に帰りたいと泣く僕。
そんなある日、父が帰宅すると母と僕が泣いていたという。
父は決心して転職し、家族で実家に戻った。
それから父は変わった。
休みの日はキャンプや海に連れていったり、家族の時間を大切にしてくれた。
※
小学生の頃。
家族で東京ディズニーランドに行った。
その日のホテルへの帰り道だったと思う。
人身事故で駅のホームは大混雑。
小さな視点を埋め尽くす乱立した人だかり。
待たされた人たちの静かな苛立ち。
都会の異様な冷たさに呑まれる僕と母と父。
電車のドアが開いて、流れ込む人だかり。
流れのままに電車の中へ入る僕たち家族。
殺気立つ人々。
押し潰され「痛い」と叫ぶ僕。
母と繋いだ手が離れそうになる。
母と父から遠ざかる。
痛い。
怖い。
気持ち悪い。
「小さい子がいるんです。押さないでください!」
と父は怒鳴った。
電車の中は静まりかえった。
すると僕たち間に空間が生まれ、するりと父と母の元へ。
電車内で家族は一つにまとまった。
父が格好良かった。
そして、電車内で当たり前のことを指摘した父が、周りから冷たい視線で見られていたのがとても印象的だった。
田舎から大都会へ来て、満員電車を経験したことがなかったため、父は思わず叫んだかもしれない。
でも満員電車はこれが当たり前という雰囲気の中で、家族のために叫ぶ父は素晴らしい。
僕は同じことをできるか自信がない。
※
僕が大きくなってから、あの日のことを聞いた。
「お前のじいちゃんは早くに死んだ。悔しかったと思う。もっと子供と一緒に居たかったと思う。だから俺がその分、子供を大切にしなければならない」
と父は言った。
白髪が増えた。
老眼鏡をかけるようになった。
体は細くなった。
でも、相変わらず酒の量は減らない。
最近、父に孫が出来た。
歳を取っても変わらず、子供に一生懸命に向き合っている。