俺が小さい頃に撮った家族写真が一枚ある。
見た目は普通の写真なのだけど、実はその時父が難病を宣告され、それほど持たないだろうと言われ、入院前に今生最後の写真はせめて家族と…と撮った写真らしかった。
俺と妹はまだそれを理解できずに無邪気に笑って写っているのだが、母と祖父、祖母は心なしか固いと言うか思い詰めた表情で写っている。
当の父はと言うと、どっしりと腹を括ったという感じで、とても穏やかな表情だった。
母がその写真を病床の父に持って行ったのだが、その写真を見せられた父は特に興味も示さない様子で
「その辺に置いといてくれ。気が向いたら見るから」
と、ぶっきらぼうだったらしい。
母も、それが父にとって最後の写真という事で、見たがらないものをあまり無理強いするのも良くないと思い、そのままベッドの傍に適当に仕舞っておいた。
※
暫くして父が逝き、病院から荷物を引き揚げる時に改めて見つけたその写真は、まるで大昔からあったかのようにボロボロで、家族が写っている部分には父の指紋がびっしり付いていた。
普段とても物静かで、宣告された時も見た目は普段と変わらずに平常だった父だが、人目のない時、病床でこの写真をどういう気持ちで見ていたのだろうか。
今、お盆になると、その写真を見ながら父の思い出話に華が咲く。
祖父、祖母、母、妹、俺…。
その写真の裏側には、もう文字もあまり書けない状態で一生懸命書いたのだろう、崩れた文字ながら
『本当にありがとう』
とサインペンで書いてあった。