妻が亡くなる前、闘病の際に「私が死んでも泣かないで」と娘二人は言われていました。
それから数日後、妻は息を引き取りました。
通夜の晩は私が会場で妻に付き添うこととし、当時まだ高校生だった娘は帰宅してもらいました。
葬儀の朝、なかなか来ない娘を心配していましたが、ギリギリで会場に現れました。
娘の髪が短くなっていました。
「何もこんな時に美容室行かなくても」
と叱る私に、
「お洒落なママとのお別れじゃん」
と娘は平然と答えました。
気まずい雰囲気のまま妻の葬儀が始まりました。
しかし、葬儀の終盤で髪を切った本当の理由が判りました。
棺の中に花を添える際、娘が妻の手元に、切った髪の毛の一束を添えました。
「お母さん、これからも一緒に居るよ」
の一言に、私は現実を受け止めず泣く事を避けて居たのですが、涙を堪え切れませんでした。
「ずるい」
の一言の後、娘は泣きながら私に顔を押し付けました。
妻との約束は果たせませんでしたが、同じ淋しさで娘と心を通じ合わせ、一緒に生きる覚悟をもらったように思います。