祖父が死んで、もう12年になる。
幼い頃から、
「蛍は亡くなった人の魂だから、粗末に扱うな」
と祖父に教えられてきた。
※
去年の8月15日の夜、父と俺とで家族総出の花火大会の後始末をしていた。
二人きりで居ると死んだ祖父の話になって、
「爺さん、帰って来てるかな」
と話したその時。
目の前を通り過ぎる小さな光が。
それを見て、父と俺は呆気に取られた。
蛍が一匹、瞬きながら俺達の頭上を飛び回り、家の屋根を行ったり来たり。
「爺さんが帰って来たんだ」
どちらともなく呟いたら、蛍は真っ直ぐ天に向かって飛び上がり、星の瞬きの中に消えた。
父曰く、63年生きて来て、この時期に蛍を見たのは初めてだとの事。
あれは間違いなく祖父だったと、俺と父は信じている。