昔は JR大久保駅(兵庫県)から通勤していたのですが、週2日は午前10時までに舞子に着けば良い時期がありました。
朝はゆっくりできるし、電車は空いていて快適でした。
ホームへの階段を降りてすぐの所にベンチがあり、そこに書類カバンを置いて缶コーヒーを飲んでいると、
「おかあちゃん!ここ座れるで!座りや!」
と小学生くらいの男の子。
しまったと思い、俺はベンチのカバンをどけました。
「ほら二人座れんでー」
母親と目が合い、俺は座る所にカバンを置いていたバツの悪さから会釈しました。
「おっちゃん!ここ座るとこやで!物置いたらあかんねんで~」
「ごめんな~、ぼうず偉いな~」
「ボクもう三年生やもん」
(おい鼻水出てるぞ)
親子はそこから二つ目の明石駅で降りて行った。
仲が良さそうで、何だかいいなあと思いました。
※
それからも何度かこの親子と一緒になりました。
「おっちゃん、また大きいカバン持って…仕事大変やな~」
(タメ口…( ̄― ̄))
その度にこの子供とは話をするようになったのですが、
「おかあちゃん、おかあちゃん」
と言っているこいつがまあまあ可愛く思っていました。
※
ところが暫くこの親子とは会わなくなり、俺もこの遅い出勤がなくなってしまっていた頃。
その日は日曜に休日出勤になってしまい、お昼頃にホームで電車を待っていると、例の子供が父親と居ました。
「今日はおとんとお出掛けか?」
「うん!いまからおかあちゃんとこ行くねん」
(え? 親は別居中?)
「おかあちゃん病院おってんけど、今日帰ってくんねん」
へえ…こいつが母親を気遣っていたんは、通院の付き添いやったからか。いいとこあるやん。
「おっちゃんも仕事頑張れやぁ」
(やっぱタメ口…( ̄ω ̄))
※
それから半年くらい経って、駅前がクリスマス一色になった頃、俺は再びその子供に会いました。
「今日は一人か? おかんは元気か?」
「おかあちゃん死んでもてん…」
情けない大人で、何も言ってやれないまま同じ電車に乗りました。
そんな重い病気やったんや…。
だからこいつはあんなに気遣って、おかあちゃんおかあちゃんて…。
この半年、めちゃ悲しい思いしたんやろなぁ。
そんなことを考えていたら、電車の窓の外を見ながら泣けてきました。
※
俺が降りる駅が近付いて来て、
「どこまで行くん? 一人で大丈夫か?」
「大丈夫や!」
「ボクもう三年生やもん」
(今度は俺が鼻水出してしまいました)