15年前の話です。
今でもそうだが人付き合いの苦手な俺は、会社を辞め一人で仕事を始めた。
車に工具を積み、出張で電気製品の修理や取り付けをする仕事だ。
当時はまだ携帯電話は高価で、俺は仕事の電話をポケベルに転送し、留守電を聞いてお客さんに連絡するという方法しか取れなかった。
生活さえギリギリだった。
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ある日、母親が九州の実家から関東の俺の家まで訪ねて来た。
遠くから来た親を労ることもせず、無愛想な俺。ホントにバカだ。
俺を心配し、掃除、洗濯、料理を作り、山ほど食糧を置いて母は帰郷した。
バカ息子は見送りもしなかった。
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仕事から帰宅した俺は、母の手紙を見つけた。
『仕事頑張って下さい。少しですがこれで携帯電話でも買って、声を聞かせて下さい』
手紙にはお金が同封されていた。
手紙を手に、俺はわあわあ泣いた。
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カメラやメールなんて出来ない。メモリーも50件しか入らない初期の電話。
でもこの電話にどれだけ助けられただろう。俺には最高の宝物。
母の日に電話を送った。ちゃんとお礼を言わなければ。
「おかあさん、どうもありがとう」と。