俺は小さい頃に母親を亡くしている。
それで中学生の頃は恥ずかしいほどグレた。
親父の留守中、家に金が無いかタンスの中を探していると、一本のビデオテープがあった。
俺は『親父のエロビデオかな?』などと思いながら再生してみた。
そしたら、病室のベットの上にお母さんが映っていた。
『○○ちゃん、二十歳のお誕生日おめでと。何も買ってあげられなくてゴメンね。
お母さんが居なくても、○○ちゃんは強い子になってるでしょうね。
今頃、大学生になってるのかな? もしかして結婚していたりしてね…』
10分くらいの短いビデオテープだった。
俺、泣いた。本気で泣いた。
次の瞬間、親父の髭剃りでパンチパーマを全部剃った。
みんなにバカにされるくらい勉強した。
俺が一浪だけどマーチに合格した時、親父はまるで俺が東大にでも受かったかのように、泣きながら親戚に電話していた。
※
それで二十歳の誕生日に案の定、親父が俺にビデオテープを渡して来た。
またよく見てみたら…ビデオを撮っている親父の泣き声が聞こえる。
お母さんは、笑いながら
「情けないわねぇ」
なんて言ってるんだ。
俺、また泣いちゃったよ。
父親も辛かったんだろうな。
親父にそのことを言ったら
「知らねーよ」
と言っていたけど…。
※
親父は俺の就職が決まった時、
「これでお母さんに怒られなくて済むよ」
と言っていた。
俺はこのビデオテープがあったから、真っ当に生きられている。