俺は小学生の頃、母の作った炊き込みご飯が大好物だった。
特にそれを口に出して伝えた事は無かったけど、母はちゃんと解っていて、誕生日や何かの記念日には、我が家の夕食は必ず炊き込みご飯だった。
高校生くらいになると流石に『またかよっ!』と思うようになっていたのだが、家を離れるようになっても、偶に実家に帰ると待っていたのは母の
「炊き込みご飯作ったよ。沢山食べなさい」
の言葉だった…。
※
ある日、会社に電話が来て、慌てて向かった病室には既に親戚が集まっていた。
モルヒネを打たれ意識の無い母の手を握り締めると、母の口が動いた。
何かを俺に言いたそうだった。母の口元に耳を近付けると、
「炊きこ……たよ。たくさ……さい」
と消え入りそうな声で言っていた。
それが最後の言葉だった。
※
「ママの作ったスパゲッティー大好き!」
口の周りを赤くしてスパゲッティーを食べる娘と、それを幸せそうな目で見つめる妻を見る度に、母の炊き込みご飯が食べたくなる。