糖尿病を患っていて、目が見えなかったばあちゃん。
一番家が近くて、よく遊びに来る私を随分可愛がってくれた。
思えば、小さい頃の記憶は、殆どばあちゃんと一緒に居た気がする(母が仕事で家に居なかった為)。
一緒に買い物へ行ったり、散歩したり。
だけど、ばあちゃんが弱っているのは、子供だった私にも解っていた。
※
高校に入ると友達と遊ぶ方が多くなり、ばあちゃんの家へ行くことが少なくなって行った。
偶に行くと、
「さぁちゃんかい?」
と弱々しい声で反応していた。
もう、声だけでは私だと分からなくなっていた。
「そうだよ、さぁちゃんだよ。ばあちゃん、散歩行こうかー?」
ばあちゃんの手を取って散歩に行ったけれど、もう昔は歩けた場所まで歩けなくなっていた。
それ以降、あまりばあちゃんの家へ行くことは無くなった。
※
暫くして、母さんから
「ばあちゃんが呆けちゃったよ」
と聞いた。
誰が誰だか、分からないんだって。
私のことも分からなくなっているらしい。
何となく覚悟は出来ていた。けれど、悲しかった。
※
それから半年くらいが過ぎた頃。
ばあちゃんが死んだという報せが届いた。
泣くことも無く、通夜と葬式が終わった。
葬式が済んだ後、私は叔父に呼び出された。
叔父はばあちゃん達と最後まで暮らしていた人だ。
「箪笥の中に『さぁちゃんの』という封筒が入ってたんだよ」
そう言って、私に封筒を手渡した。
ばあちゃんの字で『さぁちゃんの』と書いてあった。
中身は通帳だった。私名義の。
二十万ほどの預金が入っていた。
働いていないばあちゃんが、こつこつ貯めたお金。
そう言えば昔、ばあちゃんが話していた。
「さぁちゃんが結婚する時の為に、ばあちゃん頑張ってるからね。
だから、ばあちゃんにも孫を抱かせてね」
その夜、初めて泣いた。
※
ばあちゃん。
あれから5年も経っちゃったけど、さぁちゃん、来年結婚するよ。
孫を抱かせてやれなくてごめんね。
でも、喜んでくれるよね。