文才が無いため酷い文になると思いますが、少し私の話に付き合ってください。
24歳の時、私は人生のどん底に居ました。
6年間も付き合って婚約までした彼には、私の高校時代の友人と駆け落ちされ、父親が死に、後を追うように母も自殺。
葬式やら何やらで会社を休んでいる間に私の仕事は後輩に回り、残された仕事はお茶汲みと資料整理。
そしてついに彼に逃げられたことが会社に広まり、私は笑い者でした。
もういっそ死んでしまおう。
そう思ってからは早かったです。
※
アパートへ帰り、元彼のネクタイで首吊り用の縄を作り、
『人生が嫌になったので自殺します』
と遺書を残し、首に縄を掛けました。
ああ、終わる。
私の人生は何だったんだろう。
そして立っていた椅子を倒そうとした時でした。
「ガチャッ」
突然アパートの扉が開き、知らない男の人と目が合いました。
その時の私は相当、間抜けだったと思います。
その男の人も同じように間抜けな顔をして、この状況に困惑していました。
「お、降りてください!!」
すぐにその人は靴も脱がずに部屋に上がって来ました。
私を抱き上げ縄を外すと、私をジッと見つめました。
「部屋を間違いました」
それだけ言うと、その人は静かに部屋から出て行きました。
私は突然のことに脱力し、そのまま眠りに就きました。
※
次の日はいつも通り仕事に行き、いつも通り雑用を任され、いつも通りの時間が過ぎて行きました。
ですが、いつも通りではないことが一つ。
アパートへ帰ると、私の部屋の前に誰か立っているのです。
それが誰なのかはすぐに判りました。
その人は私を見ると軽く頭を下げ、私の元へ歩いて来ました。
「昨日はすいませんでした。僕の部屋はあなたの上の階なのですが、昨日は酔っていて…。
何かお詫びがしたいです。お暇ですか?」
その人は優しく素直な人でした。
私と同い年だったこともあり、いくつかの飲み屋をはしごする内に打ち解けて行きました。
初対面のはずが、会話が途切れないのです。
五軒目を出た時には、二人とも真っ赤な顔をしてフラフラしていました。
※
駅前のベンチに二人で座り、また他愛も無いことを話し始めました。
「君と居ると楽しいよ」
「私も楽しい」
「だから、死なないで」
彼の声は真剣でした。
色々な話をしましたが、私が自殺しようとしたことについて、彼が何か言ったのはこれが初めてでした。
「もう分からない、私が生きている意味も、何のために生きていけば良いのかも」
婚約者のこと、両親のこと、会社のこと…。
私が話している間、彼は黙って聞いていました。
私が涙で言葉を詰まらせると、彼は優しく背中を撫でてくれました。
「なら、僕のために生きてください。
僕はあなたのために生きて行きます」
今考えると、こんなことを言ってしまう彼も、大泣きしながら頷いた私も、酔っていたのです。
普通なら初対面の女にこんなことは言わないし、私だって初対面の男の言葉を信じるはずがありません。
でも彼は、私を幸せにしてくれました。
どちらも一人暮らしだったため、夕飯はどちらかの部屋で食べるようになりました。
私は料理が得意ではありませんでしたが、彼の料理は絶品でした。
※
そして半年が経ち、私の誕生日がやって来ました。
仕事から帰ると、あの日のように彼が部屋の前に立っているのです。
「おめでとう、一足先におばさんだね」
彼はそう笑いながら、大きな花束をくれました。
その日を境に、正式に付き合い始めました。
私の部屋を解約し、彼の部屋で一緒に暮らし始め、私は彼に甘えて仕事を辞めました。
それからは掃除と洗濯と料理、毎朝の彼のお弁当作りが私の仕事になりました。
※
そしてまたその半年後、仕事から帰って来た彼が、百点満点の答案用紙を見せるようなキラキラした目で
「貰ってきちゃった」
と、婚姻届を私に見せて来ました。
※
一週間後には、彼のご両親に挨拶に行きました。
お義母さんもお義父さんも、とても良い人たちでした。
結婚の挨拶に行くと、彼から聞いていたのか
「色々大変だったわね」
と涙を流してくれ、
「息子をお願いします」
と深々と頭を下げられました。
本当に温かく、私を娘のように可愛がってくれました。
新しい両親が出来、幸せになれました。
※
私は婚姻届にサインしながら彼に聞きました。
「私もあなたを幸せにしたい。
あなたの為なら何でもするから、何か恩返しをさせて?」
彼は少し考えた後、優しく笑いながら言いました。
「僕より先に死なないで」
※
結婚式は挙げませんでした。
相変わらず、ずっと狭いアパートで二人暮らしです。
私は子供が出来ませんでした。
私は彼にも、両親にも子供の顔を見せることが出来ず、悔しかった。
しかし、誰も私を責めませんでした。
私はいつの間にか、優しい人に囲まれていました。
幸せで、本当に幸せで、気が付くと、彼と出会って十年が経っていました。
私はだめな嫁でした。
上達しない料理とお弁当を毎日食べさせ、結局子供も出来ず、彼に甘えてばかりでした。
しかし彼は、私の料理を残さず食べてくれ、いつもありがとうと言ってくれました。
誕生日の花束も忘れたことはありません。
私を気遣い、休日は彼が家事をしてくれました。
私は幸せでした。
※
私は今、病院のベッドの上に居ます。
先月癌が見つかったのですが、既に発見が遅く、良くて一年だろうと言われました。
彼は毎日見舞いに来て、私の手を握ってくれます。
一度死のうとした私への罰でしょうか。
まだまだ彼と居たいのに、私は彼より先に死んでしまうのです。
幸せにしたいと言ったのに、そんな簡単な約束も守れないのです。
本当に私はだめな嫁ですね。
優しい彼を毎日泣かせてしまうなんて。
※
長々とすいませんでした。
休み休み書いていたら、こんなに長くなってしまいました。
最後にもう少しだけ。
※
さくらです。
優、あなたに出会えて、あなたの家族になれて幸せです。
私を見つけてくれてありがとう。
優の優しさが、私を救ってくれました。
約束、守れなくてごめんなさい。
先に向こうで待ってるね。
優はおじいちゃんになってから、来てください。
愛しています。
いつかあなたの元に届くことを祈って。