当時付き合ってた恋人(現在の嫁)が突然、心因性発声障害という病に罹りました。
当日は遊びに行く予定だったのですが、彼女の方からLINEで断りのメッセージ。
どんな些細な事でも電話で伝えてくれる彼女でしたから、何か疑問に感じて…。
気付いたら彼女の家へと足が向かっていました。
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家に着きインターホンを鳴らすも反応がありません。
LINEの通知音が鳴り画面に目をやると、
『〇〇君?』
とメッセージ。
用心深い彼女と一通り遣り取りをした後、
『今、開けるね』
というメッセージが届きました。
きっと泣いていたのでしょう。
目を真っ赤にして立ち尽くす彼女を見て、全てを察しました。
すぐに病院へ行き診断を受けたところ、心因性発声障害とのことでした。
彼女はかなり落ち込んでいて、全てに興味を示さなくなり、まるで脱け殻のようになりました。
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ある日、
『大事な話がある』
というメッセージが届いたので会いに行くと、筆談で別れを切り出されました。
『貴方に迷惑を掛けたくない。
声が出ない女なんて嫌だよね』
私は彼女が持つメモ帳を取り上げて、
『嫌だ。
絶対別れない。
君が話せなくて辛いなら俺も話さない。
声なんて無くても、伝わって来る君の優しさが好き。
結婚しよう』
とプロポーズ。
彼女は涙ぐみ、頷いて、メモ帳に
『ありがとう』
と書きました。
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そして彼女と同棲するようになりました。
会話は殆ど筆談、或いはジェスチャーでした。
上手く伝わらなくて苦労もしましたが、笑って楽しく過ごしました。
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一年後、そして迎えた結婚式当日。
奇跡はそこで起こりました。
一通り式が進み、二人の最後の挨拶の最中。
隣から微かにウッとすすり泣く声が。
挨拶の途中でしたが、私は
「すいません」
と一礼し、
「○○?」
と呼び掛けマイクを向けました。
すると絞り出したような声で、
「ありがとう」
と言ったのです。
会場は締めの挨拶などもう必要が無いほどの大盛り上がり。
そのまま大盛況で式は終わりました。
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そして現在、声を取り戻した妻と仲良く暮らしています。
偶に筆談で遊んだりして、あの頃を思い出したりします。
今では苦難もかけがえのない思い出です。