マニュエル・ガルシアは元気で頼もしく、近所でも働き者と評判の父親だった。
妻に、子供に、仕事に、将来、全て計画通りに運んでいた。
ある日、マニュエル・ガルシアは腹の痛みを訴え、原因を調べに診療所へ行った。
身体にはがんの細胞が自然の摂理を犯して広がっていた。
そこでミルウォーキー郡のマニュエル・ガルシアは町の病院に入院した。
途端に39年の人生が砂時計のように流れ落ちて行く思い。
「どうすればいい?」
とマニュエル・ガルシアは泣いた。
「基本的には二つある」
と医者は宣告した。
「放って置けばすぐにも命取りになる。しかし治療は痛いし、治る保証もない…」
こうして始まった、マニュエルの辛苦の日々。
薬漬けの長い眠れぬ夜。長く寂しい廊下に足音がこだまし、彼の時間と分とを刻んで消える。
身体の中で何かが自分を蝕んでいると思うと、マニュエル・ガルシアは絶望に目の前が暗くなった。
※
9週間の治療の後、医者が来て言った。
「マニュエル、私たちはあらゆる手を尽くした。君のがんは今、小康状態。ここからは君次第だ」
マニュエルは鏡を見た。悲しくおののく見たこともない顔。
青ざめ、皺だらけで、淋しげに怯えている。
患い、見捨てられ、誰にも愛されていない自分…。
体重は僅か57kgで、髪の毛もない。
自分に先立たれた妻カルメンの60歳の時を思う。
父親の居ない4人の幼な子はどうなる?
フリオの家でのカード遊びにも、もう行けまい。
やりたいことは色々あったのに。
※
退院の日、ベッドの周りを動き回る足音に起こされ、マニュエルは目を開けたが、まだ夢の続きだと思った。
妻と4人の友人が揃ってつるつる坊主だ。
彼は瞬きして、信じられずに目を凝らした。
ぴかぴかの頭が5つ並んでいる。
それでもまだみんな黙っていたが、やがてみんな大笑いし、そして泣き出した。
病院の廊下は人々の声で溢れた。
「友よ、お前のためにしたことさ」
と友人たちは言った。
※
彼を車椅子で連れ出し、借りて来た車まで運んだ。
「俺たちが付いているよ」
マニュエル・ガルシアは懐かしい町に帰り、アパートの前で車を降りた。
日曜だというのに近所はいつになく寂れて見えたが、彼は深呼吸して帽子を被り直した。
だが家に入ろうとした途端、玄関のドアがぱっと開いて、マニュエルは馴染みの顔に囲まれていた。
懐かしい者たち、家族の友だち、50幾つもの顔が皆、くりくりに剃った頭で言ったのだ。
「お帰りなさい!待ってたよ」
マニュエル・ガルシアは込み上げるものを堪えて言った。
「喋るのは苦手な俺だが、これだけはどうしても言わせてくれ。
俺はこの頭で堪らなく孤独だった。
でも、今はみんなが俺の力になってくれてる。
天に感謝するよ。
俺が必要とする力をくれたみんなに神の祝福あれ。
愛の意味を知ったこの人生、万歳」