
こんにちは。
11年後の君です。
儲け話も、これから出会う誰かの名前も、今は教えません。
代わりに、もっと大事なことだけを渡します。
※
明日、弟が亡くなります。
高校三年生の夏なのに、くも膜下出血という突然の別れです。
お風呂で、静かに。
これは、今の君には避けられません。
だからせめて、君の手で最初に見つけてあげてください。
母さんを第一発見者にしないでください。
その一瞬の重さから、母さんを守ってください。
※
そして、言ってあげてください。
「お前は、俺の自慢の弟だ」と。
言葉に出してください。
照れ隠しに笑う癖を、今日はしまってください。
※
葬儀の日、弟の友達が教えてくれます。
「俺の兄貴、大学生でさ。これから大学院行くんだぜ」って、無邪気に自慢していたことを。
そのとき、君は気づきます。
弟を“バカ”だと心のどこかで見下していたのは、他でもない自分だったと。
本当に“バカ”だったのは、言うべき言葉を飲み込んでいた兄のほうだったと。
※
明日は、静かに深呼吸してください。
救急車を呼び、状況を伝え、母さんの肩を支えてください。
そして、弟の名前を呼んでください。
届かない場所へ行く前に、声だけは必ず届けてください。
「誇りに思っている」と。
「ありがとう」と。
※
11年経っても、後悔は薄れません。
それでも、あの日の自分に言葉があれば、未来の痛みは少しだけ軽くなります。
だから、どうか。
避けられない別れなら、せめて伝えてください。
「お前は俺にとって、自慢の弟だ」と。
それが、11年後の君から渡せる、たった一つの手土産です。